Vol.02

白磁陶芸家黒田 泰蔵 TAIZO


黒田先生のアトリエをお訪ねしました

今年の夏のはじまりの朝に白磁陶芸家 黒田泰蔵先生をお訪ねすることになりました。雨あがり、少し湿り気を含んだ海風は素肌に気持ちが良く、豊かに揺れる木々の緑も鮮やかな夏色に光っています。

黒田先生のご自宅とアトリエは、伊東市富戸の海や島を見渡す断崖の上。なんと約2000坪という広大な敷地の中にあります。自生していた木々をベースに、足し算引き算された植栽。石や木のオブジェ、蓮を浮かべた水盤や水瓶が絵画の構図のように配された庭は、すっぽりとそこだけが現実からタイムアウトして、遠いアジアの集落にワープしたような錯覚に陥ります。






ご自宅とアトリエはそれぞれに大きな日よけの軒と土と石のたたきのある平屋建てです。その佇まいは、先生の作品同様華飾を排したシンプルな直線のデザイン性に溢れ、その素材や設えには人の手の温もりが感じられます。

強い日差しを深い軒がさえぎり、窓の外に美しい庭の風景が広がる居心地の良いリビングでお話を伺いました。





無垢の白磁に挑む

黒田先生の作品はすべて白磁。あまりに平凡な質問で恐縮とは思いながらも、やはり聞かずにはいられず「何故、白磁なのですか?」と伺ってみました。
先生は緊張を和らげるように、そしてにこやかに「白い色の器が好きだったから、かな。」


「もちろん最初から白磁だけを作ろうとしていたのではなくてね。いろいろ作るけど、納得がいかない。40代に入った頃は睡眠時間が平均2時間から3時間になるほど仕事に没頭していたけど、このままの自分でいいのかという苦悩はどんどん拡がっていった。」


「自己表現としての陶芸と生業としての陶芸は表裏一体でありながら、矛盾している。でも、そのどちらも僕の中にあって、それが現実。」


「それでももう『好きなものを造りたい。』という気持ちは止められなくて、『白磁』だけを創り始めた」。




世界中のアーティストから注目される黒田作品

黒田先生の作品は、日本以上に海外での評価が高く、常に世界中のアーティストから注目されているニューヨークの「YOSHII GALLERY」にエキシビションされ、レギュラーで個展を開催していらっしゃいます。
ファッション界や音楽界をはじめあらゆるジャンルの世界のトップアーティストが先生の作品を求めて伊豆の工房を訪れるそうです。


世界的に著名なお立場でありながら、私のような素人の質問にも、誠心誠意お話してくださる黒田先生の包容力に感激しつつさらに伺ってみました。


――― 作品に対する感想は日本と、海外とでは違いがありますか。
「日本では、モダンといわれることが多いのですが、海外では日本的だと言われますね。」


―――『日本的』というのはかなり抽象的ですが、海外で言うところの『日本的』というのは具体的にはどのようなことでしょうか。
「茶道に象徴される、無駄なもの、華飾を一切排した、削ぎ落とされた美のようなことをイメージしていると思います。」


「ろくろを回していると頭の中でいろいろな想いが湧いてくる。複雑に造って、こんなこともできると技術を誇張したくなったり、鑑賞人の『受け』を想像して歩み寄ろうとしたり・・・」  「そんな迷いの中で自分の精神の心髄だけに向き合って形にする。」


「でも、国境や人種、職業に関係なく、理想と現実との矛盾に苦しんだり、死ぬことを恐れたり、                                   生き方に悩んだり、自然を敬服したり、人はみな究極的には同じなんだと思う。」


生意気を書かせていただくと、先生の作品には先生の心の葛藤のすべてが、正々堂々と表現されていて、
その真っすぐな想いが虚飾にまみれた現代の人々の心を強く打つのではないでしょうか。


器に細胞があるならば、出来上がった作品の細胞の一つ一つは先生の手がろくろを回して造ったといえます。
先生の白磁は、唯一無二、戻らない時間の流れが封じ込められ、永遠に存在するミニマムな宇宙なのかもしれません。





取材を終えて

先生は今年63歳になられます。40代で製作を白磁に絞り込んでから、今また、陶芸家としてのターニングポイントにあるとおっしゃっています。

「『究極』を求めて、求めきれないまま死んでいくのかもしれない。」という先生のお言葉どおり、その活動は常に現在進行形でいらっしゃいます。

住まいとアトリエを伊豆に求めた理由を伺うと「美しいから」というお答えをいただきました。
研ぎ澄まされた芸術活動と伊豆の平然とした海と山の風景は同じ振幅で、真逆にバランスをとっているのかもしれません。/tuki




白磁陶芸家黒田 泰蔵 TAIZO

公式サイト

1946年、滋賀県に生まれる。1966年、フランス・パリに滞在。その後、ニューヨークに滞在後、カナダ在住にてGeatan Beaudin氏の下で陶芸を学ぶ。カナダの製陶会社“SIAL”にてデザイナーとして勤務、カナダにて築窯した後、1981年に帰国し伊豆松崎町にて築窯、1991年伊東市に築窯とともにスタジオを開設。この頃より白磁に拘った創作を始め、今もなお自己表現として究極の白磁を求めて活動され、日本のみならず海外でも高い評価を受けています。


略歴 1946 日本に生まれる
1966 フランス、パリに滞在
1967 ニューヨークに半年滞在後、カナダ在住陶芸家のGeatan Beaudin氏の下で陶芸を学ぶ
1975 カナダの製陶会社"SIAL"にてデザイナーとして勤務
1978 カナダ、ケベック州のセントガブリエルにて築窯
1981 帰国、伊豆松崎町にて築窯
1984-87 東京渋谷のパルコにて“Shop Taizo”を経営
1991 伊豆富戸にてスタジオを開設
1992 独自の白磁を生み出し、ニューヨークにて初の個展を開催

パブリックコレクション 東京国立近代美術館(東京)
クリーブランド美術館(オハイオ、アメリカ)
ブルックリン美術館(ニューヨーク、アメリカ)
バード・ホフマン・ウォーター・ミル財団(ニューヨーク、アメリカ)
クラーク財団 ルース&シャーマン・リー日本美術研究所(カリフォルニア、アメリカ)
ヴィクトリア&アルバート美術館(ロンドン、イギリス)
樂翠亭美術館(富山)
インフォメーション

「アートの風」の取材のために貴重なお時間をいただき、ほんとうにありがとうございました。「また、いつでも遊びにいらっしゃい。」と笑顔でお見送りしていただき、図々しくもまたお話を伺いたいと思ってしまうほど、先生の温かなお人柄に魅了された時間でした。白磁のスタンダード「黒田流」を目指す黒田泰蔵先生。伊豆の自然エネルギーをチャージされて、ますますご活躍されますようお祈りいたします。

●取材・撮影:メープルハウジング ●画像、本文などの無断転用は法律により禁止されています。

ページの先頭へ